貪喰。

好きなものを好きなだけ

まぼろしの君

 

久しぶりの休日だった。

普段外に出ることなんて滅多にないが、どうにもむしゃくしゃしていて、気分転換に街へ繰り出した。

行くあてもなく、ぶらぶらと練り歩いたが、やはり面白いものは何もなかった。

人に酔い、気がつけば人気の少ない公園にたどり着いた。遠くから人だかりが見えた。一眼見て気がついた。

君がいた。

見間違えることなんてない。穴が開くほどにみていた君の顔。途端に心臓の音がうるさくなる。どうやら撮影をしているようだった。

もうしばらく顔も見ていなかった。今どこで何をしているのかも、知らない。咄嗟に物陰に隠れる。気づかれるのがこわかった。

キメ顔をしていたり、時々笑ったり。ぎこちないポージングもあの時のままだ。なんだかとても安心した。

君の笑顔は本当に元気が出る。

いつもひまわりみたいな人だなと思っていた。

撮影が一区切りついたようで、君はベンチに座り、眩しそうに太陽を見つめると徐ろにサングラスをかけた。

またドキリとする。

奮発してプレゼントした、サングラス。その姿は初めてみた。よく似合っている。悩みに悩んで似合うものを選んだのだから、似合うに決まっているのだが…。

君を見ていて気が付かなかったが、他にも数名撮影の被写体となるモデルが居たようだった。君は楽しそうに彼らと会話していた。

ずっと会いたかったような気がしていた。

会いたくないような気もしていた。

胸の奥底からジリジリと湧いてくる感情を抑えられる気がしなくて、この場を離れようと立ち上がった。

物音でも立ててしまったのか、君と目が合った。

同時に足が地面にくっついてしまった。一歩も動けない。気づかれてしまった。

いや、あれから何年経ったことか。もう忘れられてしまっているに違いない。

いつも笑いかけてくれた。うんうんと、話を聞いてくれた。どんな面白くないことも爆笑してくれた。君の優しさだった。今思うとどれも宝物みたいな時間だった。

ふと君が最後に言ってくれた言葉を思い出した。

ハッと我に帰ると、君はうんうんと頷きながら手を振って何か言った。

「──!」

あの時といっしょ。

わたしは逃げるように君の前から去っていった。